菓子作りは素材と餡で決まります。
こし餡なら腹がわれないように丹波小豆を炊き、手で皮と実をこし分け、何度も水でさらし、最良の砂糖を加えて炊き上げます。この間、まる一日。
さらに一晩ねかして、初めてお菓子が作れます。
最高の素材の、一番いいところを引き出すため、このような作業に全身全霊を捧げています。
本当の食べ頃というのは難しいものです。
贈り物の場合、お菓子としての食べ頃が、受け手が好まれる望ましい時とぴったり合うようにお届けする。そのときに初めてお菓子の中に本当の真心がこもるような気がします。
贈り物が溢れている世の中で、差し上げても戴いてもそれを召し上がる時にも、おふたかたの気持ちがほとんど通い合っていないような気がするのです。
昔の菓子屋は、お得意様のために特別のお菓子を作って、そのお得意様の代わりにお菓子をお届けしました。召し上がるときに贈り主の顔が思い浮かぶような気持ちのこもったお菓子。
そんなお菓子をお届けして、おふたかたの悦びが増すような贈り物が作れればと願っています。
贈る方の気持ちがお菓子の中に少しでも多く込められるように、お客様オリジナルのお菓子を作ることができればと思います。家紋、屋号、お名前、花押、お好みの言葉、印などを焼印に誂えお菓子に押す。そうする事で世界中に一つだけのお客様の心のこもった贈り物をお届けできるのではないかと考えております。
お召し上がりの際に、はっと気付き心が交じあうそれが私の願いです。
オリジナルのお菓子に言葉を添えていただければより気持ちのこもった贈り物になるのではないかと思います。簡単なメッセージカードやごあいさつ文を少し添えるだけでお顔が思い浮かぶ本当の贈り物ができるのではと考えております。
僭越ながらお菓子のしおりの中にお客様とそのお菓子についての私のこだわりを加えさせていただければと思っております。
普段の生活においてもお菓子を召し上がるときにも、盛り付けを愉しむという事を忘れつつあるように思います。忙しい毎日だからこそ、本物の器に盛り付けてほっとできる時間を少しだけ作る。それだけでいつもとは違うゆっくりとしたやわらかい時間が流れるように思います。
お客様にはより美味しくお菓子を召し上がっていただくための時間を作っていただきたい。このような私の勝手な願いのために奈良の器作り名士二人がご協力下さいました。
赤膚香柏窯七代目尾西楽斎様には饅頭蒸しをはじめ、様々な器を古都奈良の高い文化に育まれた技術と豊かなセンスで焼いていただき、樽井宏幸様には神仏のために捧げておられる奈良漆器の高い技術で、毎日使い込んでいただける驚くほど丈夫な本物のお盆、菓子器などを塗っていただけることになりました。神仏に支えられる古都奈良の伝統文化のために尽くしておられるおふたかたです。
本物の器で目で愉しみ心を癒しゆっくりとしたひと時をお過ごしいただければと思います。
この度は樫舎の会をご覧いただき誠にありがとうございます。
私は和菓子屋に生まれ育ち、菓子作りしか出来ませんが、真心のこもった思いのある菓子を作らせて頂いております。
お客様や、そのご縁の方々が、喜んで頂ける菓子を第一に考え、樫舎の会を開会させていただきました。
ただ、菓子職人というものは大変微力でございます。良いお客様・良い環境・良い材料、道具がなくては何もできません。
樫舎の会の会員様をはじめ、私を応援して下さるたくさんのお客様、こだわりの材料や道具をわけて下さる名人の皆様、そして樫舎の会開会にあたりご協力下さいました春日大社権宮司 岡本彰夫様、薬師寺執事 大谷徹奘様、株式会社イットアップ社長 林田光平様、また大垣良雄様をはじめスタッフの皆様に、この場を借りて心より感謝申しあげます。
また、会に参加して下さいました赤膚焼窯元 尾西楽斎様、奈良漆器 樽井宏幸様にも重ねて感謝申しあげます。
樫舎主人 喜多誠一郎